2018,10,14 Saitenklang Scharf Konzert を聴いて KAKO

1014)Salzburger Saitenklang ・伊藤啓子 による オーストリア・アルプス音楽 コンサート を聴いて

Prof. Wilfried Scharf (Zither)/Roswitha Steindl(Gitarre)/Sabine Kraus(Harfe)この三人により1996年に結成された Salzburger Saitenklang の演奏を聴きました。今回はヨーデルの伊藤啓子さんも加わって、一段と華やかな舞台でした。Saitenklang としては、2013年にも来日したようですが、私は今までProf.ScharfのSoloしか聴いた事がありませんでした。 Scharf 先生の、名人芸 “トレモロ奏法” 、いつも感嘆の思いで聴かせて頂いて居りますが、私の日本の歌の編曲作品をコンサートで弾いて下さったり、Zeillern-Seminar では何度も個人レッスンをお願いしましたので、先生には取り分け親しい思いを勝手に抱いているのです。

2011年Zeillern Seminar でScharf 先生とカコとシャルフ-1

 

 

 

 

このたびは、開演前に会場の薄暗い通路で偶然にも先生をお見掛けし、走り寄ったのでした。暫くぶりの再会をhugと握手で喜び合い、Scharf 先生は『今年Zeillern では会えなかったね。』と。短い会話の後先生は控室へ。Scharf 先生のいつもの懐かしくもかぐわしい移り香に包まれて演奏を聴くという、何とも幸せな二時間を過ごしたのでした。

コンサートが行われた横浜市港北公会堂は東横線・大倉山駅から徒歩で行ける距離にあります。この大倉山には惠藤美津子さんと私、“チターアンサンブル大倉山” というグループで、2006年まで活動していましたので、共通の思い出深い地でもあるのです。港北公会堂とは反対方向の丘の上にある大倉山記念館という、西洋と東洋が融合したような、とても立派な建物に、月一度の割で、美津子さんも西宮から通ったものでした。Saitenklang のコンサートが行われた公会堂は客席600 ほどの中ホールで、前方5~6列は平、その後ろから順次傾斜して高くなってゆきます。私はその傾斜し始めた二列目中央辺りに腰を下ろしました。600席となりますと、Zither は大抵アンプを通しての演奏になるのですが、今回はアンプ無しで、ツィター・ギター・ハープ、これら三台の楽器のバランスが良かった所為か、私の席からは音量の上で何の難点もなく心から楽しむ事が出来ました。 良かった事の最も大きな理由を一つ挙げるとするならば、それは音量の上で “聞こえて来る音楽” ではなく、“聴こうとして聴いた音楽” であったから、ではないでしょうか。2014年伊東・ひぐらし会館でのTomy コンサートで、舞台の準備中、アンプを通した音が人工的かつ大音量で、Tomy さんの思い描く音にならず調整に苦労していた時、「大きな音で、聞こえてきてしまう音楽ではなく、聴こうという意思をもってこそ聴こえる音楽にしたい。」と私がつい漏らしましたら、舞台の花を任されていた花やの大将が、『良いこと言うねえ!』と同調してくれた事を思い出しました。まさにその理想に合致した音量であった事が、素晴らしい演奏と相俟って、心地よく聴けた一因ではないでしょうか。

ここでコンサートに使われた楽器についても紹介致しましょう。

ツィター:Wuensche のScharf-typ, これは標準のDiskant-Zitherより一回り大きく出来ており、絃が長い為,迫力と艶のある音が特徴と言えましょう。 プログラムの最初の曲がMozart ラルゲットと、穏やかな曲であったせいか、私には“おやっ、こんなに優しい音色だったかしら?” との感を抱きました。でもその後、東ヨーロッパの曲などでは、楽器の本領発揮、といったそれらしい音色に替わり、さすがScharf 先生!と思ったものでした。

ギター:打越島三氏所有の、ドイツMarkneukirchen・Weller 作が使用されました。 打越さんはツィターをお始めになる前には、ギターに情熱を注いで居られた時期も長く、スペインのサントスなど、有名でかなり高価なギターもお持ちだったようです。今回のコンサートでは楽器を提供なさいましたので、響きをとても気にしていらっしゃいましたが、Saitenklang のこの度のプログラムには、バララン ジャカ ジャンジャン といったスペイン風な和音で響かせる歯切れの良い伴奏形が極めて少なかったため、このマルクノイキルヘンの楽器は穏やかに美しく奏で続けたのでした。

ハープ:大きな楽器故、奏者が自分の楽器を運ぶことは稀で、演奏する国の楽器提供会社から借りてコンサートに臨むことが多いようです。今回のハープは永谷義篤氏の所蔵、ベルリンフィルのハープ奏者から譲り受けた、これもかなり優れた楽器のようで、Solo で聴いてみたいとも思いました。 この様に選び抜かれた三台の楽器・奏者によってこのコンサートは演奏されたのでした。  ギター曲に、“アルハンブラの思い出”という名曲があります。

これを打越さんご自身がギターでお弾きになった録音テープを、十里木の山荘でお聞かせいただいた事がありました。それはそれは素晴らしい演奏でしたよ!!! 打越さん、今はその曲 “アルハンブラの思い出” をギターではなくツィターで弾いていらっしゃるのですから凄いですね。それを思い出して、ギター時代の事を少し伺いましたら、メールでお返事を下さいました。その内容を皆様に是非ともご披露したく、ここにそのまま載せさせていただきます。

およそ40年以上も昔のこと、私はギターに熱中しておりました。 当時、ギター仲間の間でよく弾かれた曲は、Alhambra の想い出(タレルガ作曲)、大聖堂(アグスチン ヴァリオス)、モーツアルトの主題と変奏(F.ソル)などでした。私はこれらの3曲を必死で覚えてを楽しんでいました。そこで思いついたのがアルハンブラ宮殿に行き、ギターを弾いてくるという夢でした。 この夢はすぐに達成されました。そのころ手に入れた有名なサントス作のギターを持参したかったのですが、それはやめて現地で新しいギターを購入しました。  実際にアルハンブラ宮殿に行ってみると宮殿内のドームはギターの弾けるようなムードではなく、ごった返しておりました。それと気おくれがしたのも事実です。そこで宮殿の庭で弾くことにしました。糸杉の植え込みと噴水、美しい池のある静かな庭でした。ここは “へネラリッフェの丘” という庭でした。あまり人がいなかったのでそろそろ弾いていると、だんだんと人があつまりました。特にスペインの軍人さんたちの一行が立ち止まって私の演奏をじっと聴いてくれました。私は一生懸命弾いたことを今でもよく覚えております。嬉しかったですね。

2打越写真-1 打越アルハンブラ1-1

 

 

 

 

 

 

後日、私は息子の高校のPTA 会長をさせて頂いた時、卒業式の話にアルハンブラのことを話しました。「皆さん、目的を持つことはたいへん大切です。目的は持った時点で半分は成就していて、あと半分を努力すれば目的を達成できます。」というような内容でした。このスピーチは校長先生からもお褒め頂きました。『生徒達が目を輝かせて聞いていましたよ。』と言われました。 上記のギターの名器(サントス)は、その後、指の故障でギターが弾けなくなりましたので、手放しました。アルハンブラ宮殿で弾いたとき、手に入れたのが、ドイツ製のギターです。 このギターが今回シャルフ教授のサロンコンサートで使っていただいたものでした。                          

                                             2018年11月  打越 島三

打越さんの、お仕事とは別の一面、音楽上の足跡が綴られたこの素晴らしいお話により、ANZ 投稿文の内容が更に彩り豊なものとなりました事、とても有難く、心よりお礼申し上げます。

さて、コンサートの報告に戻りましょう。 オーストリアの国歌は歴史の流れの中での変遷がありましたが、第二次世界大戦後に定められた国歌は“山々の国、大河の流れ” と歌い始められるのです。 今回のコンサートは『山で生まれた音楽が川の流れの様に世界へ広がってゆく様をイメージした。』と永谷義篤氏の解説の通り、山や河、民謡,舞曲、そしてウィーンを主題にしたもの等でプログラミングされ、ヨーデルの伊藤啓子さんが加わった事でなお一層舞台が華やかになり、コンセプト通りの “オーストリア・アルプス音楽” が堪能出来たのでした。

Mozart の ”おいで、愛しいチター“、”チラタールは我が喜び”、”ヨハン大公のヨーデル”などの民謡が伊藤啓子さん(スイスヨーデル界で最高のランクに位置付けされている)により歌われました。声の艶、ヨーデルの技にも一層磨きがかけられ、最高の状態で歌われたヨーデルは、ツィター・ギター・ハープの伴奏に支えられ、実に素晴らしいものでした。

アンサンブルを聴く時、私はついツィターに耳を集中してしまい勝ちなのですが、一般のお客さまは、舞台を包括して聴き、見、楽しみなさるでしょうから、アンコールを求める拍手が、手拍子に替わった事からも、この度のコンサートが大成功に終わった事が見て取れるでしょう。

永谷義篤氏による司会も親しみ易いお話で、舞台と客席をあたたかく結び付けていた事も、成功の一因と思います。インスブルック大学でチロル民俗学を学び、長年に亘りオーストリアと日本の橋渡しをした功績によりチロルとアウスゼーの名誉市民の称号を与えられている、という実績に裏打ちされた司会ぶりでした。

コンサートの成功には奏者と聴き手が相呼応する部分のある事も重要な要素です。 聴き手の満足度が演奏者にも充分に伝わる、誠に清々しいコンサートでした。

2018年11月 KAKO

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