2018年、一年を締めくくるに相応しいコンサート KAKO

2018年、一年を締めくくるに相応しいコンサート

N響主席指揮者、パーヴォ・ヤルヴィ率いるドイツカンマーフィル、昨年12月には横浜・みなとみらいを皮切りに、所沢、東京はオペラシティと文化会館、愛知芸術劇場、そして何とANZ の本拠地、西宮の芸文、最後が宮崎芸術劇場、と七か所で演奏をしたそうですから、西宮の芸文でお聴きになった方もいらっしゃるかと思います。

そのメンバーの一人、ヴァイオリン奏者、村田穂積さん、奥様でピアニストの桃子さんによるDuo コンサートが暮の26日に伊東で開かれました。

村田穂積さんは伊東出身で、彼が幼い頃、ヴァイオリン発表会でブラームスのハンガリー舞曲を弾き、その時ピアノ伴奏をした、というささやかなご縁から、ブーケのプレゼンターという晴れがましいお役を仰せつかったのでした。

会場となった伊豆高原のレストランは音楽好きのオーナーが折々選りすぐりの演奏家を呼んでコンサートを開き、約60ある席がすぐに満席となるのです。

当日のプログラムは、

フォーレ・ソナタ第1番

ペルト・フラトレス

ドビュッシー・ソナタ ト短調

サラサーテ・序奏とタランテラ

といった、ヴァイオリン好きを満足させるに充分なプログラミングでした。

ピアニストの後ろ1.5mという、奏者に至近距離の席であったため、楽譜から曲の聴かせどころや構成なども読み取れ、食い入るように見、むさぼり聴いたのでした。

皆様も多分ご存知ないと思われる曲、ペルトのフラトレスが特に印象に残りましたのでこの曲について、少しお話すると致しましょう。

村田穂積さん達は、お正月まで伊東で過ごしてからドイツへ戻る、とお聞きしましたので、年明け早々に穂積さんをお訪ねし、この曲 “フラトレス” についてお話を少しお聞きした上での文章です。

 

ペルトのフラトレス、これは作曲者、曲名共に私には全く馴染みの無いものですが、アルヴォ・ペルトという1935年エストニア生まれの作曲家で1977年に作曲した、本来は古楽器のアンサンブルの為の曲であったものを作曲者自身によって後にヴァイオリンとピアノの為に編曲されたものだそうです。

まず、選曲からして、パーヴォ・ヤルヴィの影響でしょうね、エストニアの作曲家の作品を入れたところは。題名のフラトレス とは、親族・兄弟・同士、といった意味だそうで、日本語訳はまだ無いようでした。

曲は全体を通してヴァイオリンの特殊奏法tintinapri (ティンティナプリ)様式で書かれておりシンプルな聖歌風のピアノの和音に乗って、ヴァイオリンがシャコンヌ風に時に美しく、時に情熱的に曲を紡ぎます。

tintinapri これは鈴声とも言われますが、Harmonix (倍音)、ツィターの奏法で言うとflageolet、なのです。

ツィターでは、16分音符の速さで1ページも長く弾く事など不可能と思われますが、ヴァイオリンでしたらかなり早いパッセージをこの奏法(指板をしっかりとは抑えず、軽く触れる程度)での演奏が可能な事にも瞠目の思いでした。

ツィターの上で出すフラジョレット同様、透き通った笛の様な音で、かなり早い音の動きを演奏するこの曲は私には新鮮で、大層感動を覚えたものでした。

村田穂積さんは、『大して難しい奏法ではない。』 と言いますが、難しくもなくて、笛の様な透き通った響でかなりの長さを16分音符で演奏出来るとは、何と効果的な奏法か!と村田さんともお話したのでした。

曲中何度かその奏法が挟み込まれ、練習曲風の趣を感じますが、とても美しい曲である事が強く印象に残りました。

 

Franz von Vecsey のWaltz TristとAntonin Dvorak の Romantische Stuecke の二曲がアンコールに応えて演奏されたのでした。

“素晴らしい演奏、特にフラトレスが初めて聴く曲で印象に残り、正に耳からのブランデーでした。” と言いながら、私は上気した顔で、ブーケを村田穂積さんに手渡したものでした。プログラムに相応しいと思えるセンスの良いブーケで、自分が用意したわけでもありませんのに、大層誇らしいお役目に嬉しい一方の2018年を締めくくるに相応しいコンサートでした。

ほぼ毎年東京で、浜松で、伊東で、といった具合に村田穂積さんの、あるいはドイツカンマーフィルの演奏を聴いていますが、演奏家として立つ、生きてゆくことは、どれ程大変で、重たい人生か、と、その世界をほんの少し知っているが為に、常に頭が下がる思いが致します。また、村田穂積さんの様な演奏家の集まりであるからこそ、ドイツカンマーフィルはあのサウンドを出せるのだとも思うのです。

今年も来日し、聴かせてくれます事を望みますと共に、関西でも演奏会が有ります折りには、どうぞ足をお運びになって下さい。

2019年1月18日 KAKO

 

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