2022年3月30日から4月3日まで、アメリカ・ミズーリ州ワシントンで開催された”International Zither Gathering 2022”に参加しました。トミーさんと、ワシントン在住のチター奏者アン・プリンツさん、そして地元の奏者が集うThe Schwarzer Zither Ensembleと、The Washington Historical Societyが主催し、全米からチター奏者が集まる催しです。トミーさん指導によるチターオーケストラの合奏ワークショップや個人レッスンに加え、最終日に開かれたコンサートにも出てきました。少し時間が経ってしまいましたが、記録を残したいと思います。
※ちなみに今回訪れたワシントンは、首都のワシントン DCともワシントン州とも異なる、アメリカ中西部にあるセントルイス近郊にある街です。
私はちょうどアメリカPA州に滞在中、コロナの波が比較的落ち着いてきた時期の開催でしたのでラッキーでした。参加を決めて申し込みをした2月頭には、主催のアンさんから大量のアンサンブル楽譜と練習用の音源データがメールで届き、一曲ずつ曲を覚えているうちにあっという間に時間が過ぎてしまいました。
<フィラデルフィアチターアンサンブル>
ワシントンでのワークショップに先立ち、3月20日にはフィラデルフィア近郊の奏者が集まってアンサンブル練習をするZither Campが開かれました。フィラデルフィアの中心地から電車で1時間ほどの郊外にある奏者の親族の方のお家を会場に、雪深い時期を除いて定期的に開催されているとのことで、その存在を知ってから練習会の開催を大変楽しみにしていました。
この日の参加は、ご紹介をいただいて事前にメールのやりとりをしていた主催のジョンさん、カールハインツさん、クルトさんの御三方と私の4人でした。朝9時から午後2時ごろまで休憩を挟みつつワークショップの課題曲をひたすら練習するというハードな日でしたが、誰かと一緒に演奏するのはものすごく久しぶりのことでしたので本当に楽しい時間でした。練習では、トミーさんによる手本演奏録音のテンポを落として再生しながらそれに合わせて弾くというやり方をとったのですが、録音データのbpmを自由に変更して再生できるアプリはとても便利で今後も活用できそうです。
練習会場は本当に広くて綺麗な素敵なお宅で、広大な庭では養蜂業をされているということ。スケールが大きく自然豊かなアメリカの暮らしを目の当たりにした1日でもありました。
<楽器の梱包について>
少し脱線しますが、いつかどなたかの参考になればと思い、飛行機移動の際のチターの梱包について書いておきます。楽器の飛行機内への持ち込みはサイズの関係で不可能だったため、日本からアメリカへ楽器を持ってきた際も、ミズーリ州へアメリカ国内線で移動したと
きも、スーツケースとともに預けざるを得ませんでした。特に国内線に預けるのは不安でしたが、下記の方法で私は問題なく運べました。
・楽器のハードケースをクッション代わりの分厚いキルティングベッドパッドで包む
・さらにそれを折りたたみ自転車運搬用の丈夫で大きなトートバッグに入れる(楽譜、譜面台も一緒に)
・外側から荷物固定用ベルトで縛る
・移動時は二輪の折りたたみ台車に縦に乗せてゴムベルトで固定
<ワシントンとチター>
Zither Gatheringが開催されたミズーリ州ワシントンは、チターとの縁が非常に深い街です。1867年にオーストリアからアメリカに渡りワシントンに定住したFranz Schwarzerは優れた技術を持つ大工で、家具や教会の彫刻に加えてチターの製作も手がけました。1873年、彼が製作したチターがオーストリアのウイーン博覧会でゴールドメダルを獲得したことで、”Zither King”として国際的にその名を馳せることになったといいます。その後、Schwarzerはワシントンの街で工場を拡大してチターや他の弦楽器を多数製造し、毎週日曜日にはチターコンサートを開催していたとのこと。当時から今までワシントンでチターの音色を響かせてきたThe Schwarzer Zither Ensembleの多くのメンバーは、100年以上前にSchwarzerによって製作された楽器を使用しているそうです。街の中心地にあるThe Washington Historical Society Museumにも当時のチターがいくつか展示してあります。
<ワークショップ>
3月30日から始まったオーケストラワークショップ、初日はフライトが遅れたために1時間ほど遅刻しての到着になりました。セントルイス空港まで飛行機で2時間、空港からワシントンまではタクシーで約1時間。会場に着くとちょうど休憩時間で、2018年の来日コンサート以来4年ぶりにトミーさんとお会いすることができました。
練習はワシントンにある教会の集会室のようなお部屋で行われていました。チターオーケストラのメンバーは20数人で、ここまで大勢のチター奏者を一度に目にしたのは初めてで度肝を抜かれましたが、フレンドリーな方ばかりで、謎の日本人である私に次々と話しかけていただき有り難かったです。
席には参加者ひとりひとりに向けたお土産の入ったバッグが用意されていました。練習時につける名札、名前の入ったオリジナルのタンブラーや楽譜ファイル、ワシントンの観光案内やマスクに至るまで、きめ細やかな心配りに感激しきりでした。準備に掛けられた時間を想像すると運営の方々に本当に頭が下がります。
練習会場の脇では楽譜や弦などの展示販売も行われていました。(石原先生編曲の楽譜も置いてありました!)
4日後のコンサートに向けた課題曲は全10曲あり、順番にトミーさんの指揮で合わせ練習していきました。コントラバスやバスチターの奏者の方がアンサンブルに入っているので低音が充実しており、メロディに集中して弾けるのはありがたいことでした。課題曲の中のF.Golden ”Sonatine Facile”などは、右手無しのメロディ弦だけでもおそろしく難しかったですが…。明るく和やかな雰囲気で進む練習は本当に楽しかったです。
合奏の合間には、トミーさんによるフィンガリング決定のためのプロセス紹介”How to determine a good fingering”や、参加している奏者の方による弦の張り替え方法レクチャー、和音進行についてなどさまざまなレクチャータイムも設けられており、ためになることばかりでした。休憩時間には、近くの奏者の方と”Der Weg zum Herzen”や “Cafe Mozart Waltz”などを一緒に弾いて遊んだりもしていました。国は違ってもチターの人気曲ってやっぱり共通しているなぁと思ったりしました。
<個人レッスン>
アンサンブル練習の合間にトミーさんによる個人レッスン45分の枠をお願いすることができたので、姿勢、指の形などの基礎を見ていただきました。
・右手親指の先から薬指の先までが弦に対して垂直になるように。
・右手親指と人差し指の間に丸いスペースを作る。
・メロディ弦を弾く右手の親指は弦に対してまっすぐ水平なラインを保つ。
・左手は肘から上と手の甲のラインがまっすぐになるように。
・左手指はメロディ弦を力で抑えるのではなく、腕の重さをかける程度。
基礎をやるのは大事だがそればかりだと面白くないので、楽器を触るときは冒頭にほんの少しだけでも姿勢や指を意識して基礎練習をやりましょう、という教えを心に刻みたいと思います。
<コンサート>
4月3日にはImmanuel Lutheran Churchにてコンサートが行われました。ワシントンの街中にある新しくきれいな教会です。アンサンブル曲9曲、間にトミーさんのソロ(ein Abend am Traunsee, Durch die Karpathen, The songs of Twilight[たそがれ時のうた], Bergen Romance, Maria Elena)が挟まる1時間少々の構成で、会場の音響もよく、静謐な雰囲気の中での大変贅沢な時間でした。観客は地元の方を中心に200人以上集まっていたと思います。
当日配布されたプログラムに出身地の記載欄があり、国外からの参加はトミーさんを除くと私のみだったので目立っていたらしく、終演後は観客の地元の方から様々な声をかけられました。「いつアメリカに来たの?学生?」「なぜチターを始めたの?」「日本にはどのくらいチター奏者がいるの?」など…。「今晩もし予定がないならうちでおもてなしするけど来ない?」と言って下さった方もいました。アメリカにいると知らない人から話しかけられること本当に多いです。
夜はZither Gatheringの締めくくりのイベントとして街のはずれのワイナリーで打ち上げが行われました。トミーさんの生演奏もあり、忘れ難い時間になりました。
<終わりに>
アメリカ郊外に車なしで出かけるというのはかなり無謀な計画だったと行ってから感じましたが、練習場所やコンサート会場への移動の際に毎度車に乗せていただいたり、チターテーブルや譜面台を貸していただいたりと様々な面で助けてくださった参加者の皆様に本当に感謝です。英語がそんなに得意ではないので言いたいことの全部は言い切れなかったのが悔やまれますが、また一緒に演奏したい奏者の方にたくさん出会えて、これからもっと技術向上に励みたいと思えました。
Zither Gathering中に撮影した写真や動画はたくさんあるのですが、お顔がはっきり写っているものばかりでここには載せづらいので、何かの折にまたご報告の機会があればと思います。
来年にはドイツでのInternational Gatheringが予定されているとのことです。海外渡航のハードルも来年にはおそらくより下がっていると思いますので、ご興味がある方はぜひ参加されてはいかがでしょうか。
Eriko S.