バーゼル紀行(3)「紙博物館 パピアミューレ」(Kako)

15世紀初頭に廻らされたバーゼル市の城壁、現在も残るその遺跡の三箇所の門の一つ、聖アルバン門を抜け、この近くの筈と歩いていたらライン川に出てしまいました。そうこうしてやっと訪ね当てた紙博物館は、この辺りと思いつつ通り過ぎた巨大な水車の裏側にありました。 紙博物館IMG_0354 紙漉には多量の水を要しますから水車と紙を結び付けて考えれば、すぐに判った筈でしたが。 最初探し歩いてライン川に出てしまった時、この都会・バーゼルとは趣を異にする光景が目に入りました。川面に小さな庭の様な物が浮かんでいます。人一人が通れる階段に続いて桟橋の様な通路、その先が畳6枚程の広さの“庭”が。デッキに簡単なテーブルとベンチが置かれ周りには鉢植えのひまわりやマリーゴールド、ルドベキアなどの夏の花の名残が咲き、小さな庭の感を呈しています。男の人がひまわりの手入れをしている様なので、ちょっと声を掛けてから降りて行ってみました。 桟橋IMG_0351 これは私設の桟橋で向こう岸と渡し舟で結んでおり、船は動力も使わずに、ラインの流れに任せるのだとか。川幅はこのあたりで200m.魚は50cm.もの大きいのがいるよ、と機嫌よく応対してくれたその人にもう一度紙博物館の在り処を訊いて、今度こそは、と博物館に向かったのでした。 博物館に入ってみると、紙漉の体験をさせるコーナーがあり、沢山の衣服やジーンズが掛けられています。なぜかしら?と思いましたが、それが紙の元になるのでした。日本では昔からこうぞや三俣の繊維を取って紙に漉いていましたが、ここバーゼルでは木材ではなく綿の古布を“洗い・叩き”を繰り返して紙の原料としていたのです。このコットンペーパは耐久性に優れ、温かな風合いを持つ事から重要な文書や、エンボス加工を施した上質なレターセット等に古くから使われて来たそうです。 体験IMG_0476 活字1IMG_0352 印刷用紙の変遷や金属を溶解しそれを器具に流し込んで一瞬のうちに活字の元を作る実演、印刷や製本に関わる道具、アルファベットの書体見本等の資料、という具合に、紙作りから印刷・製本までの様々な過程が幾つもの小部屋に分けられて、興味深く見学と体験が出来る博物館でした。 文字だけでなく音楽関連の、例えば15世紀頃にかけて発達した定量記譜法の四角い音符(グレゴリオ聖歌など)、あるいは“ネウマ”や“タブラチュア”等の資料があるかも、と期待して学芸員に訊ねてみましたが、そういったものはありませんでした。名前の活字を拾い、パピアミューレの版と共に自分でローラーをかけて活版印刷のミニ体験が出来たことも思い出深いものでした。帰り道、近くの修道院から鳴り響く鐘の音に、中世から印刷・出版は教会や修道院とは切り離せない間柄であった事にも思いを致しました。

 

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