ツィターの愉しみコンサート KAKO

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神戸・福岡、からバトンを受け取り、伊東・ひぐらし会館、東京・近江楽堂での演奏を終え、Tomy さんをタクシー乗り場で見送るまでをお伝えしましょう。

Tomyさんと美津子さんが伊東に到着する3月21日は、二日前からの冷たい雨がまだ止まず、神戸コンサートが終わった時,美津子さんから届いたメールに『体調悪し』とあったので、伊東到着後どこかの医院に点滴でもお願いしなくてはならない場合も考えながら駅へお迎えに行ったのでした。

10分遅れて到着した列車からTomy さん美津子さんが楽器と旅行鞄それに手提げバッグ一つで格好良く降りて来ました。美津子さんの顔色を見ると、体調はかなり回復している様に見受けられ、ひと安心。

でも夕食は予約してあった街の和食のお店からホテル内の食堂に、時刻もその後の効率を考えて5時20分から、と変更出来たのも好都合でした。

食事は味わうより明日のコンサートへ向けての打ち合わせに、どうしても熱が入ります。

夜9時までと明日朝9時から3時間の練習室確保をホテルのフロントにお願いすると会議室を快く提供してもらえ、世話役の私もホッと胸を撫で下ろしたものでした。

さて3月22日、いよいよコンサート当日です。幸いな事に雨は止み、開場となる夕刻には晴れに向かう予報です。

音響機器などの運搬にはホテル・会場間は近いとは言え車が必要、コンサートの度に全ての面で協力してくれる高校同級生、K氏が、約束の時間ぴったりに運搬に駆けつけてくれました。

1時過ぎから始まったリハーサルに、Tomy さんが主になって音響機器の設置・調整を進めるなか、ホールの音響係、舞台の花、プロジェクターの係などが次々に到着し、受付では他のコンサートのチラシ挟み込み、立て看板の用意、駐車場・座席など、車椅子への対応も慌ただしくも手際よく進みます。

美津子さんが用意した新しいアンプ二個の威力は、Tomy さんが普段使用して使い慣れたものと全く同じ機種のため、調整は手慣れたもの。

客席で音質・バランス・音色などを耳を澄ませて聴いてみると、前回のものとは明らかに違うことが良く解ります。

ツィターの生の響きが変わる事なく拡声され、そこに艶が少々加わったか、と言った感じに調整され、これで音響については何の心配も無し。

舞台には大きな生け花も整い、照明の位置、明るさも決まり、順調に準備が進む中、一番手こずったのがリモコン操作に慣れていなかったプロジェクターの係の様でした。

映像・画像と司会進行の内容等は、前回のコンサートでのアンケート結果を踏まえ、作曲者についてや歴史的事柄などにも触れて曲を紹介をする方が、何も無いよりは聴き手の理解も深まるかとの思いもありましたので、20年余りに亘るツィター生活から学んだ知識や資料を総動員して組み立てたのでした。

ツィターは芸術として祭り上げられた楽器・音楽ではなく、主に人々の暮らしと共に歩んだ楽器故、民族楽器と言われます。その為、ツィター曲の作曲者などについては一般の音楽辞典には第三の男の作曲者アントン・カラスの他にはツィターの最盛期と言える1850年頃から100年間に活躍したG.フロインドルファー、ヒンターマイアー、H.ドンドゥル、J.ブランドルマイアー、S.シュナイダー、F.ミュールヘルツ、R.クナーブルその他、ツィターの世界では誰でも知っている人が、誰一人載っていないのです。

音楽の友社の音楽辞典を引いて見ますと、楽器、Zither はチター の見出しで(ちなみにWien はヴィーンと)楽器の形状や弾き方などが一応書いてありますものの、伴奏絃の弾き方の説明では右手の2・3・4指で受け持つべきものを左手で弾く、と書かれている等、訂正を要する箇所があるお粗末さ。

ヨーロッパでもZither に関連した辞典は未だ出版されていないのが現状で、“ミュンヘンに於けるツィター200年”というA-4版・160頁の本が20年程前にミュンヘンの出版社プライスラーから出されているだけなのです。

日本人がツィターを廻るあれこれを知るには、盛んな国へ行き、実際に携わっている人から聞くしか方法がありません。そこで私の体験や集めた資料のほんの一部が出番を得たというわけです。

Tomy Temerson / Mitsuko Etoという素晴らしい奏者を伊東に迎えて、コンサートを企画する事など、私にとってこれが最後と思うが故にプログラム進行の全てに亘りプランを練って臨んだのでした。

 

演奏曲目に添って、Tomy さんの手元を写す映像はヴィデオカメラから、それぞれの曲に相応しい画像は写真を選んで編集してあるUSB メモリーから(これは奈良の0さんが面倒を厭わずに、私の思い通りに編集して下さったもの)、とプロジェクターのリモコンで切り替えねばなりません。

しかも曲の演奏時間に合わせて、およそ何秒に一枚の画像という具合に

ストップウォッチにも気配りを要します。

その係の為のプログラムも別に印刷してお渡ししてあったとは言え、切り替えが複雑だった所為で、演奏中に係二人が低い声であれこれ相談する場面が有ったのでしょう、それが奏者には気になった様でした。与えられた仕事に忠実なあまりの所作で、責任の一端は私にあるのでしょう。

Tomy さんの演奏には益々磨きがかかり、速いパッセージなど、まるでピアノで弾くかのような速さと正確さ、私が特に感心したのは、トレモロ、いわゆる“蚤つぶし”の奏法で、あのように美しい、まるで小粒の真珠を何連にもして連ねた様な演奏を目の前で見、聴いたのは始めてです。

ゆっくりの曲では情感あふれ深みが増し、品良く悩ましいヴィブラートで聴く者の心を揺さぶります。また、自分の音をよく聴きながらの演奏にも感銘を受けました。

 

 

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文字でのこの様な拙い表現はかえって無い方が良いかも知れません。

実際に聴くのが一番なのですが。

 

プログラムの第1部・第2部とも前半はTomyさんのSolo,後半は美津子さんとのDuo という構成でした。

第1部のSolo 第一曲目“時の速さ”はコンサートの準備を始めた時から本番に向かう日々の経過の速いこと、正に“光陰矢の如し”の思いから原題の“Tempo der Zeit”をこの様に訳したのでした。

“魔笛による変奏曲”では確かなテクニックが余す所無く披露され、これはまるで魔術。

次の“ゆったりしたワルツ”では特に低音で奏でられるテーマが味わい深く、これが聴きたかったの、という思いで浸る事が出来ました。

 

Duoでは1+1が3にもなる演奏効果を生み出していたと思います。

これまで何回もドイツ・スイスでTomy さんとDuo を演奏している美津子さん、

その上昨年11月にこのコンサートの為にHanau のTomy さんを訪ね、Duo 練習を積み重ねているのですから。

第1部のDuo、“コッヘル湖のすみれ”が今まで何度も舞台に載せてあるだけに、情景が思い浮かべられる良い演奏であったと思いました。(画像はその前のDuoⅡで既に写し終わっていましたが。)

第2部のSoloでは、“ザルツブルクからの花便り”がアンケートに依るととても人気があったようです。次の“レースを編む麗しい娘”では画像もぴったりと合い、これもなかなかの評判でした。

“マリア エレナ”は“Tomyのおはこ”と言える曲で、これが聴けたら一曲だけでも満足、という人も有ったかも知れません。(私がそうなのです。)

“救急車のポルカ”は会場からも笑が洩れ、この選曲も中々のものでした。

第2部のDuo で“ローレライ”“美しく青きドナウ”の2曲はこのコンサートの為に編曲したのでした。完成録音が届き、ローレライを初めて聴いた時、生まれたばかりの自分の赤ちゃんを初めて胸に抱いた時のお母さんはこうでもあろうか、と思う喜びと感動を味わえたのでした。

コンサートで実際に演奏されたこの曲は、既に赤ちゃんではなく、立派に成長している美しい娘の様でした。

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 今回も嬉しいサプライズがありました。

コンサートを公表して間もなく、小田原のM氏から電話で申し込みがあり、昨年秋、ライン川下りの船でTomy さんの演奏を目近で聴き、演奏と人柄にすっかり魅せられてしまったとの事。

コンサート当日は握手だけでも、と、前の方の客席にお座りになり、美しく青きドナウが演奏し終えた時に駆け寄って、英語でTomy さんとお話し下さいました。

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 “デュオⅠ”は真面目な楽徒の為の難度の高い練習曲と言った作風の曲。

“通りゃんせ”は何時、何処ででも好評が得られる日本のメロディーであることを改めて確認し、編曲者としても嬉しく思いました。

“ギャロップ プレスト”はその名の通り、力強い盛り上がりのある、そして美しい暴れ馬を思わせ、最後を飾るに相応しい曲でした。

今回のコンサートでは車椅子の方がお二人いらして下さり、前の方のお席でしたので、その方々に奏者への花、ばらを1本づつ、手渡しをお願いしたのでした。

 これでコンサートをお終いにするわけにはゆきませんね。

熱心なアンコールに応えて、“第三の男” が心籠めて演奏され、お客さんも大満足で会場を後にされたのでした。

Tomy さんとDuo で弾けるなんて、又と無いご褒美に気もそぞろ!

 

このコンサートでは様々な分野の方々からお力添えを頂きました。

本来はこの様な場には勿体無くて入れて頂けないのですけれど、

お許しが出ましたので、コンサートに関わって下さった全ての人に

心からの感謝の気持を籠めて、3年前に編曲したエーデルヴァイスを

弾かせて頂きました。CIMG8810.JPG-1

KAKO

 

 

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