“ツィターの愉しみコンサート“  近江楽堂 にて KAKO

まずこの近江楽堂のご紹介から始めましょう。

東京新宿駅から京王線に乗り換え一駅、初台で下車し、表示に導かれて5分程歩くとオペラシティーの大きな建物に行き着きます。近江楽堂はその3階にある、50坪、収容席数120のこじんまりした音楽堂で中に入ると前方に壁が両側から少しせり出し、四つ葉のクローバーを思わせる作りになっています。

二箇所の窪みにブロンズ像が置かれ、近寄って見るとそれは船越保武(1912~2002)の作品、“セシリア” と “聖マリア・マグダレナ”です。

照明は輪になっており、そのさらに上、天井は丸いドーム状で、音響がとてもよく、古楽器のコンサートにもしばしば使われているようです。

そのドーム天井からは十字の光が差し込む様に造られており、教会堂のような静謐な空間を演出する上でも考え尽されたホールです。

これを設計したのは新国立劇場も手掛けた柳沢孝彦氏だそうで、日本を代表する素晴らしい音楽堂と言えるでしょう。

東京にはツィター愛好家の方々も沢山いらっしゃいますので、昼の部にお出でになれない方には夜の部を、と、二回の公演を計画しましたが、予想に反して昼の部への申し込みが多く、調整を要する程でした。

伊東からの応援隊二人は11時に会場に到着。演奏者二人はそれより二時間も早く、近江楽堂の開場と同時に設営及びリハーサルを開始していました。

Tomy さんはこのドーム天井による響きの良さをとても気に入ったようで、最善の演奏を目指してテーブルの位置を微妙に調整する一方、応援隊はプロジェクターで写すものが見える範囲に椅子を並べ直すなど、お客様をお迎えする準備を進めました。

開場は1時30分、1時を過ぎた頃から受付前に人々が並びはじめ、他の催しもののお客様が間違えて並ぶ、という一幕もありました。

120より一席でもお客様が多いと大変なので、その点を心配したほどでした。リハーサルの時Tomy さんが私を呼んでいる、との事で、会場に入ってみると、プロジェクターのリモコンを差し出して、使い方をほんの10秒ほど説明した上で

『Kako これやってくれ。』 と。試しにやってみると何のことは無い、「Oh, einfach, ich mache es schon ! 」 と引き受けたのでした。

近江楽堂では、伊東と違い、Solo はTomy さんの手元を、Duoではクルーズの画像を写すことになっています。単純ではありますが、伊東の場合も操作は同じだった筈。 昼の部・夜の部も無事に写し出す事が出来、その上演奏も二度聴けて、とっても嬉しい思いをしました。

正直なところ、伊東でのプロジェクターのあの騒ぎは一体何だったの?と思うと同時に、胸がスッと晴れたのでした。

お客様も満席となり、昼の部は美津子さんの挨拶で始められました。

プログラムは伊東と同じですが、ここではアンプを必要としません。ツィター本来の音なのですが、会場がツィターに合った音響と言いましょうか、やはり響きに得も言われぬ艶が感じて取れるのです。

逆に言うならば、伊東、ひぐらし会館で使ったアンプの性能の良さを改めて思い知ったのでした。ひぐらし会館は、座席数204です。迷わずにアンプを使いましたが、前回のコンサートでは “生の音でも良かったのでは?” とアンケートに記して下さった方が2名ありました。 それを受けて今年、もしアンプを使わなかったなら、逆に“音が小さくて” という不満が数多く有ったことでしょう。

ここ近江楽堂での響きと伊東でのを比べてみて、伊東での音が、“作ったもの” ではなく、近江楽堂の響きとまず区別が付けられない程自然であった事に思い至り、音響機器の進歩は医療の分野とも並行して、素晴らしいものであると、再認識させられたのでした。

この会場の素晴らしさに演奏の二人も興が乗り、芸術性、テクニック共にこれ以上は望めないという出来栄えだったと思います。

第2部のDuo が終ると、二人には盛大な拍手が送られ、Tomy さんはアンコールに応えて “Der deitte Mann“ を華麗に、 ”In der Arena“ を素晴らしい速さで、しかも一音一音鮮明に聴き取れる正確さで弾き終え、絃の振動を止めると同時に120人からとは思えない程、盛大な拍手が湧き起ったのでした。

この昼の部はヴィデオ録画するとか、ライヴで放映したい程の上出来だったと思います。

お聴き下さった方の中で、お一人この様な感想をお話し下さった方がありました。 演奏は全て、第一級、申し分の無い素晴らしいものだった。

敢て一つだけ申上げると、ヴィデオカメラで写す映像がほんの少しだけ遅れて映る、アナログのカメラなら指の動きと同時になるんだけど。との事で、夜の為にも、とTomy さんには一応伝えたのでした。

プロジェクターを調節すると改善される様でしたが、夜の第2部ではやはり映像が少し遅れて映し出される所為で、音と指の動きが不思議に写るようでした。

 

夜の部の演奏は、これが今回の5度に及ぶコンサートの最後、との思いから二人の奏者は特に気を引き締めて臨んだ様で、昼の部と変わらぬ緊張を持ち続け、立派に演奏し切ったのでした。

Tomy さんは自分の荷を手早く纏め、美津子さんの差し入れによる“丹波黒豆甘さ控えめ”が大層お気に入りで、袋に少し残ったものも大事そうに鞄につめている姿が微笑ましく感じました。

羽田空港から深夜の便に乗る予定のTomy さんを、タクシー乗り場まで美津子さんと二人、慌ただしく送り、別れ際に『KAKOの曲を弾く事は私の喜びだから、これからも頼むよ。』 と声を掛けてもらえ、新たに活力を頂いたような気がしてとても嬉しいでした。

Tomyさんを送る寂しさは勿論ありましたが、皆で精一杯成し遂げた喜びがあり、清々しい気持でタクシーのTomy さんを見送る事が出来ました。

美津子さんは、神戸コンサートの頃、体調が悪かったにも関わらず、意志の力で5回のコンサートを立派にこなし、また最後の近江楽堂での演奏が最高に良かったので、これも体調にプラスしたことでしょう。

去年のHanau 行きから、ずっとのんびりする間も無く、この一連のコンサートをこなしたのですから、誠に立派だと言う他ありません。

舞台を踏む毎に演奏にも磨きが掛かり、Tomy さんの期待にも添える様になっているのですから、これからも健康には留意しつつ、聴き手を喜ばせてほしいものと心から願って居ります。

 

 

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